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名古屋地方裁判所 昭和43年(わ)144号 判決 1968年6月15日

被告人 B・H(昭二五・一・七生)

主文

被告人を懲役四年以上八年以下に処する。

未決勾留日数中九〇日を右本刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、

第一、昭和四二年六月○○日午前一時ごろ、○○市○○町○○丁目○○番地先付近路上において、たまたま同所を通りかかつた浅○浩(当時二九歳)運転の普通乗用自動車の前に立ちふさがつて右車を停車させたうえボンネットにもたれかかつたりしたため右浅○からやめるように促されたことに因縁をつけ、Aと共謀して、右浅○を車から路上に引きずり降ろしてこもごも手けんで同人の顔面、背中等を数回殴打し、或いは足蹴りするなどの暴行を加え、よつて同人に対し全治まで約一〇日間を要する右眼瞼裂創兼皮下出血の傷害を負わせ、

第二、前記傷害事件により、前記Aが○○市○○町○丁目○○番地の○所在の愛知県○○警察署に連行留置されたものと思い込み、右Aの釈放方を嘆願するため、同日午前四時頃、自動車で右警察署に赴いたが、自らも右傷害事件により同署員から追跡逮捕される危惧の念を抱き、それを免がれるため、あらかじめ同署玄関付近に駐車してあつた警察業務用無線自動車等のタイヤの空気を抜いていた最中に、宿直勤務中の同署巡査○坂○一(当時二九歳)に見つけられ逃げようとしたところ、同署正門付近において右○坂巡査に左手首をつかまれたので逮捕を免れるため、隠し持つていた刃渡り約一五・一センチメートルのあいくち一丁(昭和四三年押第一〇三号の一)を数回振りまわした後、いきなり右あいくちで右○坂巡査の下腹部を一回突き刺し、よつて同人をして右総腸管静脈刺切による腹腔内出血により同日午前七時五分頃、同市○○町○丁目○○番地、同市立○○病院において死亡するに至らせ、

第三、昭和四二年五月○○日午後八時三〇分頃、B、Aと共謀のうえ、正当な理由がないのに、○○市○○○○町○丁目○○番地所在、○川紡績株式会社東側の高さ約二メートルのコンクリート塀を乗り越えて、同社構内に入り、更に同構内の卓球室に行き、以つて人の看守する建造物に侵入し、

第四、昭和四二年六月△△日午前二時頃、A、Cと共謀のうえ、○○市△△町○丁目沖合い三○○米位の○○港内に仕掛けてあつた吉○冨○郎所有の角立網内から、同人所有のうなぎ、えび等、時価約一、五〇〇円相当の魚類を窃取し、

第五、法定の除外事由がないのに、昭和四二年六月△△日午前三時半頃、○○市××町○丁目○○番地先路上において、刃渡り約三九センチメートルの日本刀一振(昭和四三年押第一〇三号の二の押収品)を所持し、

第六、昭和四二年一一月○日午前二時頃、杉○喜○嗣と共謀のうえ、○○市□□町○丁目○○番地、株式会社鍛○新鉄工所において、同社所有の中古キャップタイヤ三本(時価約二八、〇〇〇円相当)を窃取し、たものである。

(証拠の標目)(編省略)

(法令の適用)

被告人の判示第一の所為は、刑法第二〇四条、第六〇条、罰金等臨時措置法第二条、第三条第一項第一号に、判示第二の所為は刑法第二〇五条第一項に、判示第三の所為は、同法第一三〇条前段、罰金等臨時措置法第二条第一項、第三条第一項第一号に、判示第四の所為は、刑法第二三五条、第六〇条に、判示第五の所為は、銃砲刀剣類所持等取締法第三一条の三第一号、第三条第一項に、判示第六の所為は、刑法第二三五条、第六〇条にそれぞれ該当するところ、判示第一、第三、第五の各罪につき、所定刑中それぞれ懲役刑を選択し、以上は刑法第四五条前段の併合罪なので(註、被告人の司法警察員に対する昭和四二年一二月二七日付供述調書によれば、被告人は、昭和四二年七月二八日頃半田簡易裁判所で道路交通法違反の罪により罰金五、〇〇〇円に処せられ、同年八月二九日に右裁判が確定したものであつて、これを裏付ける前科調書もある。しかし、右確定裁判は昭和四三年法律第六一号により改正され、同年六月一〇日から施行された刑法第四五条後段にいわゆる禁錮以上の刑に処する確定裁判に当らないし、また右改正前の同条後段を適用することが被告人のために利益であるとも考えられない)同法第四七条本文、第一〇条により最も重い判示第二の罪の刑に、同法第一四条の範囲内で法定の加重した刑期の範囲内で処断すべきところ、被告人は少年法第二条第一項の少年であるから、同法第五二条第一項を適用して被告人を懲役四年以上八年以下に処し、なお刑法第二一条を適用して未決勾留日数のうち九〇日を右本刑に算入することとし、訴訟費用は、刑事訴訟法第一八一条第一項但書により被告人に負担させないこととする。よつて主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 堀端弘士 裁判官 高橋金次郎 裁判官 三関幸男)

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